守口市八雲神社 八雲南地車

皆さんこんにちは。

主に堺方面の各地で秋祭りが開催されております第1土日。めでたいですね。
久しぶりの通常開催で、感覚を元に戻すのはなかなか大変かと思いますが、村に活気を取り戻させ、来年に繋がる祭礼になることを願っています。

今回は以前、田原本町の地車の記事を書いた際に彫刻の題材が共通しているとのことで引き合いに出そうとしましたが、記事を書いていなかったことに気づいた八雲南地車をご紹介いたします。
(地車についても私は偏食なので、一旦堺型の記事を書いてしまうと、どうしても「堺型エエなぁ」のテンションが抜けきらず、連続で堺型の記事を書きがちです。)

八雲南にこの地車が来たのは2013年(平成25年)と、割と最近の話で記憶に新しいです。
北河内圏では珍しく堺型を選択され、先代地車よりも更に古いこの地車を購入したニュースを聞いた時は驚きましたが、躯体を新調して綺麗な姿となり、彫刻は歴史ある素晴らしい作品が殆どそのまま残りましたので、オリジナルをなるべく尊重した良い作品として生まれ変わりました。

それではご覧ください。

守口市八雲神社 八雲南地車

◆地域詳細
宮入:八雲神社
小屋所在地:会所に隣接

◆地車詳細
形式:擬宝珠勾欄堺型
製作年:江戸時代?
購入年:2013年(平成25年)
大工:不明
彫刻:彫又一門
改修年①:大正9年
改修大工②:住吉大佐
改修年②:平成19年
改修大工②:池内工務店
改修年③:平成25年
改修大工③:河合工務店
改修彫刻③:【井波】野原淡水
歴史:堺市中百舌鳥(~昭和9年)
→河内長野市三日市北部(昭和9年~平成19年)
→堺市福町上(平成19年~平成24年)
→守口市八雲南(平成25年~)

参考)
改修年・改修大工・改修彫刻・歴史について
山車・だんじり悉皆調査 http://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/

姿見

左が前方、右が後方

この地車の特徴は何と言っても大きな正面三枚板の彫刻です。
同様の形態として、寝屋川市国松地車・田原本町市場地車尼崎市大官町地車(現在は勾欄がまわされている)等があります。

長押がついていたり、詰組があったり、建築的意匠が多い古い地車に見られそうな印象ですが、その点大官町と八雲南は控え目です。
縁葛が1枚モノではなく、分割仕様である点も同じですので、大官町と八雲南は同時期に同じ大工が同じ試みをした作品なのではないでしょうか。

側面より

八雲南では旗設備が不要なので摺出鼻が撤廃されることになりましたが、それでは後ろからの姿見があまりにも素っ気なくなると考えたのでしょうか?勾欄をもう少し後方に回り込ませて、正面三枚板のすぐ手前で縁を切る形へとリノベーションされました。

これはこれで、オリジナルからこの状態であったかのように見えるので、よく考えられて作られているなぁ、と感心させられた部分です。

斜め前より

オリジナルでは脇障子はありませんでしたが、使用しなくなった摺出鼻のパーツを再利用して脇障子が設けられました。

斜め後より

八雲南に嫁ぐ際の改修で大屋根の高さを下げています。
そのため、大屋根と小屋根の段差が少なくなっています。

破風

貴重なオリジナルが残っています。
大屋根と小屋根では少し形が異なるようです。

オリジナルでは桁隠しがありませんでしたが、新たに設けられました。

枡組

交換されていますが、オリジナルから出三斗だったと思われます。

鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『龍』
小屋根:『獅子噛』

八雲南に嫁ぐにあたり、大屋根前方と小屋根の鬼板が先代地車からインスピレーションを受けた獅子噛へと交換されました。
大屋根後方の龍は三日市北部時代は大屋根前方でしたが、福町上時代に大屋根後方に移動し、今もそのままオリジナルが残っています。

懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『梅に鴬』

正面向きの鳳凰は先代地車の題材を踏襲したものです。

大屋根後方:『鷲』

小屋根
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『龍』

この地車のオリジナルの状態では桁隠しが存在していません。
大屋根前方が明らか新調されたものになっていることに対し、小屋根は古い彫刻に顔を彫り替えたものになっているので、何だろうと思って調べると、先代地車の大屋根前方についていたもののようでした。

車板・枡合

大屋根前方
車板:『猩々』
枡合:『唐子遊び』

小屋根
車板:『雲海』
枡合:『司馬温公の甕割り』

右面大屋根側
枡合:『唐子遊び』

右面小屋根側
枡合:『唐子遊び』

左面大屋根側
枡合:『唐子遊び』

左面小屋根側
枡合:『唐子遊び』

木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子』

小屋根後方は元は存在していませんでしたが、大屋根の高さを詰めたことにより余剰となった大屋根後方の部品を移植してきたと思われます。
とても自然に溶け込んでいます。

脇障子の上にある唐獅子だけガラス目になっておらず、彩色も施されており、他のものとは雰囲気が異なります。

水引幕

水引幕:『珠取り龍』

花台

花台:『猩々』

これも元々この地車には無かったものです。
花台については以前、備忘録No.2として記事に残していますが、守口市瀧井地車に対し、先代地車の三枚板を譲与する代わりに瀧井地車の花台を貰うという、彫刻をトレードした過去があります。

車内枡合

車内枡合:『散水草木』

虹梁についている鶴は元々この地車の花戸口虹梁だったパーツから切り取ったものです。
大太鼓を三枚板内側に向けて積むためにやむを得ず取り外すこととなりましたが、元あった場所の近くにその跡を残しています。

脇障子

脇障子:『梅』

姿見でも述べましたが、使用しなくなった摺出鼻のパーツを再利用して製作されました。

三枚板

正面全景

より迫力が伝わるように縦向きにして撮影してみました。

正面:『楚の項羽 烏騅と云う名馬を得る』

通常の三枚板より上下に長いことを活かし、広くのびのびと彫刻しつつも、場面の緊張感をしっかりと持たせた素晴らしい作品です。

右面:『【水滸伝】中箭虎丁得孫』

この彫刻の題材については殆ど明言されていない気がするのですが、歌川国芳の浮世絵のポージングとも一致していますし、丁得孫で良いかと思います。

かなり珍しい題材ではないでしょうか。
同じ題材の地車が他に無かったかなぁ?と頭を捻って数十分・・・河内長野市鳴尾地車にあったことを思い出しました。

鳴尾の方は鷺池平九郎大蛇退治と言われているようですが、ポージングが異なりますし、感覚的な話になりますが、他2面が中国系の題材で来ているので、唐突に鷺池平九郎よりも水滸伝の方が似つかわしいように感じます。

左面:『鬼若丸鯉退治』

出人形にも負けない立体感のある作品です。
複雑な細かい波しぶきの表現も素晴らしいですね。

早速、上で述べた「他2面が中国系の題材で来ているから…」の考え方が崩れており、説得力皆無な感じですが、この絵の題材はこれしか無いですね。

角障子

角障子:『唐獅子』

場所が移動したことは姿見でも述べた通りです。

勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『波濤に千鳥』
縁葛:『干支』

後方
勾欄合:『波濤に千鳥』
縁葛:『干支』

右面
勾欄合:『波濤に千鳥』
縁葛:『干支』

左面
勾欄合:『波濤に千鳥』
縁葛:『干支』

持送り

持送り:『竹に虎』

持送り:『松竹梅』

平側は最も前の柱と後ろの柱は貫腕を出し、間柱と中間の柱に持送りが取り付く仕様になっています。

土呂幕

前方:『波濤に兎』

八雲南に来るまでは板で塞がれていましたが、新たに彫刻が設けられました。

後方:『牡丹に唐獅子・波濤に兎』

元々は彫刻が無かったと思われる下段に彫刻が設けられています。

右面
上段:『牡丹に唐獅子』
下段:『波濤に兎』

左面
上段:『牡丹に唐獅子』
下段:『波濤に兎』

欠損した彫刻は補われ、上手に古い彫刻と溶け込んでいます。

下勾欄

右面:『波濤』

左面:『波濤』

台木

彫刻なし

元は波濤の台木でしたが、傷んでいたので交換されました。

①破風中央:『唐草模様』
②破風傾斜部:『昇龍』
③垂木先:『南』の文字。
④縁葛:『唐草模様』
⑤宝
⑥肩背棒先:『五瓜に唐花紋』
⑦下勾欄親柱
⑧台木先:『八雲南』の文字。

いかがでしたでしょうか。

大変良いオリジナルの彫刻が数多く残る素晴らしい地車でした。
守口市だんじり祭りや八雲神社夏祭り・秋祭りなど、見る機会が多い地車ですので、是非注目して見て頂けたらと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

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